彼女になれない彼女
夏の夜だ。
ムシムシして、虫の声がして、風は涼しいけど夏。
店の外に出ると、外で飲んでる人たちの声が聞こえてくる。
平良の家を見上げる。
2階は真っ暗だ。

久しぶりに平良の家のお店に入ってみた。
本当はそんなに良くないんだけど、今日の平良の様子を知っておきたかった。

「あ、沙和ちゃん。」

可愛らしい平良ママが反応する。
カウンターのお客さんと話していたようだけど、「ごめんね」と一言言って私の方に来てくれた。

「すみません、お店に来ちゃって。」
「ううん、いいのいいの。」
「平良、まだうちに来てなくて。」

私の報告に「え?」と驚きの表情を浮かべる。

「上にいるなら、ご飯持っていこうかなと思って。」
「あら、ごめんね。そうしてもらえると私も安心する。私も応援に行ったんだけど、途中から見ていられなくて。体も限界だって知ってるから、余計に見てるの辛かったのよ。家帰ってきた時は意外と普通だったんだけどね、ちょっと様子見てきてもらえる?」

平良ママは私の肩にポンと手を乗せた後、またすぐにカウンターへと戻っていった。

体も限界だったんだ。

平良ママの言葉に、昨日の「無理しないなんてできない」という平良の言葉を思い出した。

無理を通り越してやるしかなかったんだよね。
なんて声かけたらいいんだろう。

< 26 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop