彼女になれない彼女
私はお店を出て玄関に回る。
インターホンを鳴らす。

しばらくして2階でガタンと音がした。
そのまま階段を降りてくる音に変わる。
ドアの向こう側でガチャと鍵を開ける音がして、ドアが少しだけ開いた。

平良だ。
覇気がない顔をしている。

「あ、ご飯、持ってきた。」

無表情の平良を前に、私の口からはそれしか出てこない。

平良の視線が私の持ってるビニール袋に移動する。

「ああ、ごめん。」

小さく聞こえた。

「はい。」

私はビニール袋を差し出す。
平良が受け取る。

「わざわざありがとう。」
「ううん。じゃ。」

私は作り笑顔を浮かべて、左手を挙げた。

「上がってけよ。」

平良が真っ直ぐに私を見て言った。

「え?」
「上がってけよ。」

同じテンションでまた言う。

「いや・・・」
「一人で食べるの虚しいじゃん。」
「そうか・・・」

私の頭にパッと、平良が暗闇の中一人でご飯を食べる姿が浮かんだ。
たしかに、虚しい。

「じゃあ、お邪魔します。」

私は平良の言う通り、家に上がることにした。
玄関で靴を脱ぐと、平良の後ろをついて階段を登る。

一昨日と同じだ。

平良が電気を付ける。
一昨日とほとんど何も変わらない畳の部屋。

折りたたみ式のローテーブルの上にビニール袋が置かれる。

「座れよ。」

平良が低い声で私に言う。
私は平良に対して3時の位置に座る。

平良はビニール袋を開ける。
中には持ち帰り用のプラスチックトレイにたくさん詰め込まれた今日のご飯。
ママが詰め込んだんだ。
平良はそれらを開けると、割り箸を取り出して食べ始めた。

無言でずっと食べ続ける。

どこかで小さくスッスッと音がした。

あれ?

もしかして平良・・・

静かな空間に平良の鼻をすする音が響いた。

どうしよう。
平良が泣いてる・・・。

見てはいけないような気がして、私は視線をどこに向ければいいのか困ってしまう。

少しずつすする音が大きくなる。

私は思い切って体をクルッと平良の方に向けた。
両手を広げる。

「平良・・・」

平良が顔を上げて不思議そうな顔をする。

「いいよ、泣いて。」

私は平良の目を真っ直ぐに見つめて、しっかりと言った。

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