彼女になれない彼女
結局、彼らもすぐ後ろの席だからお昼も一緒に食べる感じになってしまった。

「あ、前山さん、花火大会どうだった?」

矢野さんが突然昨日の話題を出してきた。

「なになに、花火大会って。」

田尻くんが食いつく。

「ほら、24日に花火大会あるじゃん。それね、彼氏と行くのか聞いてたの。」
「え、前山さん、彼氏いるの?」

田尻くんが大げさに反応してきた。

「うん。」
「まじかー!うわーショック。」

なぜかショックを受けてる。

「お前、前山さん推しだったもんな。」

高野くんが言う。

え、2人とも矢野さんでしょ。

「こいつ昨日もずっと『美人いる美人いる』ってうるさくてさ。」
「え!」

予想外過ぎて変な声が出てしまった。

矢野さんがうんうんと頷く。

「前山さん、美人だから目立つんだよー。でも恋人がいるから、狙っちゃダメだよ?田尻くん。」

矢野さんは自然と田尻くんの肩にポンと手を置く。

こういう自然なボディータッチ。
私には絶対できないなあ。

「付き合って長いの?」

高野くんが聞いてきた。

「いや、全然。そんなちゃんと付き合ってるようなわけでも・・・」

あ、矢野さんの前では下手にこういうこと言わない方がいいのかな?

私は不自然に途中で言葉を濁す。

「で?行けるって?」
「それがさ、練習試合なんだって。たぶん夕方までかかったりするから忙しいかなって思って。行くのやめた。」

私の答えに、矢野さんは「えー!」と残念がる。

「なんでなんで、頑張れば間に合うじゃん、行けばいいのに。」
「でも毎年行ってなかったし、今年もそこまでして行かなくていっかって思っちゃって。」

私がそこまで言うと、田尻くんが突然挙手した。

「じゃあ俺と行こう。」

半ば冗談のつもりだろう。

でも矢野さんが目の色を変えた。

「そうだよ、みんなで行こう?寂しいじゃん!」
「え、いいよいいよ。」
「えー、行こう!友達ってことで!」

私の渋り方を気にする風もなく、3人は「そうしよう、そうしよう」と進めた。

この3人と行くくらいなら、家でご飯食べてた方がいいな。

そしてやっぱり、花火は平良と観たい。

「連絡先聞いていい?」

田尻くんが私に聞いてきた。

「え。」

私の顔が引きつったのかもしれない。
田尻くんが手を横に振る。

「違う違う、友達として。友達として。」
「あ、うん。」

田尻くんの必死な否定ぶりに、べつに連絡先くらいいいやと思った。
スマホを取り出すと、結果高野くんとも交換することになってしまった。

矢野さんはあっという間に2人と仲良くなってしまっている。
私はなんとなく苦手で、どうしても壁を作ってしまう方だ。

お昼も、矢野さんと2人ならまだ良かったのにな。

それでも田尻くんと高野くんの話は面白かった。
テンポもいいし、つい私も笑ってしまう。
お昼が終わる頃には、彼らがすごく話しやすいことに気付く。

友達としてなら、仲良くなってもいいのかもしれない。

さっきまで高くそびえ立っていたはずの壁が、あっという間になくなってしまいそうだった。

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