彼女になれない彼女
改札内にあるカフェに入る。
夕方でなかなか混んでいた。
カウンター席に2席空いてたからそこに座る。
カウンターだから、距離が近い。

今日会ったばかりなのに、意外と話せることに驚く。

私、今まで平良とばっかり話してきたことに気付いた。

電車がよく止まるとか、迷惑な乗客とか、たわいもない話であっという間に電車の時間になる。

今度は余裕を持って店を出てホームに向かった。
電車はちょうど前の駅を出たようだ。
田尻くんが伸びをして、口を開く。

「前山さんに彼氏いなかったら本気で狙いに行ってたんだけどなー。ははっ。」

本気なのか冗談なのか分からない口調。
今までこんな風に言われること、全然なかったな。
しかも平良以外の人と、2人でゆっくり話すなんて珍しい出来事。

「やめてよ。」
「まあ、俺しつこいからよく言うと思うけど流してくれていいから。」

田尻くんは笑う。
ずるい。
そんなこと言ったって、私はどうすればいいのか分からないのに。

電車に乗ると、座席はほぼ埋まっていた。
自然と窓際に立つ。

「もうそろそろ6時なのに、まだまだ明るいよねー。」

田尻くんはどうでもいい話をする。

「ねー、信じられない。」

私も合わせる。

田尻くんは、高野くんと一緒の時はノリノリで面白いことずっと言ってるけど、私と2人になると合わせてくれているようだった。

そういう気遣いが自然とできる器用な人なんだ。

3駅なんてあっという間だ。
田尻くんの家はもっと先。
私が先に降りる。

「じゃ。また明日。」

自然と私の口から出た。

「また明日ー。」

田尻くんも笑顔で言う。

電車のドアが開いて、私はいつもの駅に降り立った。

あれ?大丈夫だよね?
なにもやましい事なんてないよね?

少し胸がざわついた。
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