彼女になれない彼女
お盆明け。
久々に店に来た平良。
何も変わってはいなかった。
当たり前だけど。

「おう。」
「久しぶりだね。」
「久しぶりだな。」

平良が笑う。

「おばあちゃん達元気だった?」
「元気、元気。ずっと出掛けてた。」

平良の姿を見て、ママが厨房から出てきた。

「あらー、なんだか久しぶりに感じるわね。」
「そうですね!久しぶりです!」
「おばあちゃん達、元気だった?」

私と全く同じ質問に、平良が笑う。

「元気です。すごく元気でした。」

なんで笑うのか、ママがキョトンとしながら私を見る。

「たった今、私も全く同じこと聞いた。」
「あら、そうだったの?でも気になるから。お年寄りの一人暮らしなんて、近くに息子さん住んでいたって心配じゃない。」

「ねえ。」と言いながら、他のお客さんから呼ばれたので去っていった。

「考えてたんだけどさ、20日どこ行きたいかってある?」

平良が突然聞いてきた。
すっかり忘れてた。

「いや、何も・・・」
「映画は?」
「あーいいね!」

平良がスマホを操作して、画面を見せてくる。

「最後までついてこれるか!?絶対にバレてはいけない逃避行の行方は・・・これは悲劇か、はたまた『喜劇』かー」

スマホの画面に並ぶ文字。
今人気の若手俳優の2人。

正直、私一人だったら絶対観ないやつ。

「ああ、いいね。」

つい嘘をついてしまった。

「すげー面白そうなんだよな。」

私とは反対に、平良はすごく期待しているようだ。
でも平良と一緒なら、何を観たって楽しいはず。

「よーし、テンション上がってきた。」

珍しく無邪気に笑う。
そんなにこの映画、観たかったんだ。

「そうだね。」

一応話を合わせた。

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