彼女になれない彼女
数学の宿題
図書館は空調が効いていて、静かで気持ちがいい。

2階の仕切りがついた机は結構埋まっていた。

私は適当に座ると、今もまだ残っている課題の数学の問題集を取り出した。

1時間が経過する頃、全然進まないことに気付く。

分かりそうなものから、と思うが最初の方でつまづいているから全然分かるものがない。

終わらない・・・。

教科書と睨めっこしてると、突然肩をポンと叩かれた。
驚いて振り向く。

「おう。」

田尻くんだ。
びっくり。

「なんで?」

口パクで言う。
田尻くんが腰を落とす。

「俺、夏休み中毎日来てんの。」
「そうなんだ。」

私は自分でも驚くほど喜んでいた。
課題が進むからだ。

すっかりお昼を過ぎていたこともあって、近くのファミレスに移動した。
簡単にご飯を食べてから、早速続きに取り掛かる。

結果、スイスイ進めることができた。

そして驚くほど、分かりやすい。

平良の教え方と違う。

平良って、自分で鼻歌を歌うように解いていく感じ。
「ここがこうなるでしょー、で、こっちがこうなるでしょー・・・」ってリズムよく一人でに進んでいく。
私はいつもそんな平良を「頭いいんだなあ」って眺めてるだけだった。

「前山さんさ、サインとコサイン全っ然分かってないでしょ。」
「うん、サインコサインタンジェント、全っ然分かってない!!」

田尻くんにズバリと当てられて、つい笑顔になった。

「そっから説明しないとなー。」

田尻くんがかなり教科書を遡る。
家庭教師みたい。
お金払わないとダメなんじゃないかな。

田尻くんがノートに三角形を描いた。

何度も何度も繰り返し教えてくれる。

マンツーマン指導ってこんなに分かりやすいんだ。

「いや、俺も数学苦手だから分かる。」

田尻くんが私をフォローするように言う。

「正直、教えられるほど理解してるわけでもないんだけど。」
「えー、すっごい分かりやすいよ。」

私の言葉に田尻くんが驚く。

「まじで?こんなんで良かったらいつでも聞いてよ。」
「助かるー!LINEするかも!」
「全然大丈夫。」

今日偶然にも田尻くんに会えて良かった、と心から思った。

私の数学の課題に一本の光が射し込んだようだ。
やっとゴールが見えてきた。

< 50 / 65 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop