彼女になれない彼女
待ち合わせの駅に着いたのは18時20分。
丁度いい。
ちょっと早かったかな。

すぐに矢野さんが来た。
藤色の浴衣姿だった。

「かわいい。浴衣だ。」
「せっかくだから着たくてさ。」

矢野さんは、モテることに関しては完璧だ。
(本人曰く「好きな人には好かれない」らしいんだけど。)
女の私が見ても、ドキッとする可愛さだ。

次に高野くんが来た。
矢野さんを見た瞬間に「いいねえ」と言う。
ほら、やっぱり。
鼻の下が伸びてる。
高野くんが矢野さんを意識しているのはとっくに知ってる。

最後に田尻くん。
18時40分を少し過ぎた頃だった。

「ごめんごめん。」と手を合わせる。
そして私の方を見て「昨日はごめんね。」と言った。

「ううん、全然。体大丈夫?」

そういえば、田尻くんは昨日体調を崩して寝込んでたと言う。

「昨日熱があったんだけど、ずっと寝てたら今朝には平熱に戻ってた。」

ニカッと笑う。
平和な、笑顔だ。

「じゃあ、行きますか。」

高野くんが言うと、矢野さんが「行こう行こう」と返した。

みんなが歩を進める。
少し私だけ後ろをついていく。

やっぱりまだ、ここに来ても気が乗らない。
周りのテンションとすごく差があって、かえって辛い。
みんながすごく幸せそうに見える。

今日はもう、帰りたいや。

その時だった。

「沙和!」

どこからか平良の呼ぶ声がした。
電車を降りた人がドッと改札を出てきたばかりだ。
花火大会ということもあって、異様な人の多さで全然見つからない。

「沙和!」

また声がした。
右を見ると、流れる人ごみの中私のところへ向かってくる平良の姿が見えた。

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