彼女になれない彼女
花火大会が始まる。

花火の間は、ずっと平良の言葉が頭の中をグルグル回って、花火が頭に入らないというか、隣にいる平良のことが気になって気になって仕方なかった。

平良が、私のことを好きだった。

花火大会が終わって、立ち上がろうとした時、平良が手を差し出した。

また、手を繋げる。

私が手を乗せる。
平良がギュッと握ってくれる。

こんなに嬉しいことが起こるなんて、想像してなかった。

電車に乗って、3駅。
少し歩けば、いつもの横丁に着いてしまう。

どうしよう。
もう少し、平良と2人でいたい。

もう少し、一緒にいたい。

そんな私の気持ちをよそに、平良はグイグイ手を引っ張っていく。

「電車すげえ混みそうだな。」

人混みの流れに乗って、平良がそう呟く。

「そうだね。乗れるかなあ。」

まだ帰りたくない。
私は、1本くらい電車を逃してもいいと思った。

ホームは人でごった返していた。
タイミングが良いのか悪いのか、すぐに電車が来る。

ドアが開くと、ドッと押されるように人が中に流れ込む。
奥へ奥へと詰め込まれる。

そして、平良と私も後ろの人に押されるように電車に詰め込まれた。

見たことないほどの満員電車だ。

つり革は全然手が届かない。
そもそもギュウギュウ過ぎて身動きも取れない。
どうしよう。

ふと平良の手が私の二の腕に移る。
グイと力強く引っ張られる。

そしてそのまま平良の正面に置かれた。
平良の腕と体に守られてるように、そこだけスッポリと静かな空間があるみたいだった。

平良はつり革の棒を掴んで体を支えているようだ。

噓みたいに、静寂な空間。

平良の体温を感じるほどに近い。

「すごいな。」

誰にも聞こえないほどに小さな声で平良が言う。

「ありがとう。」

私も平良にしか聞こえないくらいの声で言う。

緊張して熱が出そう。

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