彼女になれない彼女
ガタンゴトンと揺られながらやっといつもの駅に着いた。
いつもはあっという間なのに、今日はすごく長かったように感じる。

この駅でドッと人が降りる。
平良が私の手を引く。
人混みの中に紛れないように、引っ張ってくれる。

改札を出た。

もうここに着いてしまった。

せっかくのデートが終わる。

なんとなく平良もゆっくり歩いている気がする。
少し先に横丁入り口の光が見える。

まだまだ着きませんように。

不思議と会話がない。
平良は今、何考えてるの?

ゆっくり。

ゆっくり。

そう思っていたのに、あっという間に横丁に入ってうちの店の前に着いてしまった。

もうお別れしなきゃだ。

「ありがとう。じゃ。」
「うん、じゃ。」

引き止めてくれないよね。

ドアに手を掛ける。
開けようとした時、その手を平良に奪われた。

「ごめん。」

平良の声と同時に、引っ張られる。

そして、驚いている間に、平良の顔が近づいてきた。

唇が重なる。

え?

私の頭が真っ白なうちにサッと顔が離れた。

え?
今・・・

平良が「よしっ!」と言って、パンッと両頬を叩く。
そしてうちのドアを勢いよく開けた。

「ただいま戻りましたー!」

いつもの平良だ。

「あら、おかえりなさい。」というママの声。

私はフラフラする自分を支えることに必死で、どんな顔してママの顔を見ればいいのか分からなくて、俯いたまま店に戻る。

「花火よく見えたー?」

能天気なママの声。

「すごく綺麗に見えました!やっぱいいっすね!」

いつも通りの平良の声。

どうしよう。
心臓が限界までスピードを上げているようだ。

平良は私の肩を押して、店の真ん中に置くと「じゃ!」と潔く店を出て行った。

「ああ、うん・・・。」

私はそう返すだけで精一杯で、そのままフラフラと店を通過し、部屋へ入った。

私たちは2度目のキスをした。
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