期間限定『ウソ恋ごっこ』

「先輩、すごくエプロン似合いますね！　エプロン王子って感じ！」


「なに言ってんだ。ほら、時間がないんだから始めるぞ。こっち来い」


シンクで手を洗う先輩の慣れた動作に貫録を感じる。おずおずと先輩に近づいて、あたしも手を洗わせてもらった。


「さてと、まずはそこの炊飯窯に入ってる米を洗ってくれるか？」


「は、はい」


あたしはお米の入った炊飯窯を持って、水道の蛇口から勢いよく水を出した。


お米の洗い方なら知ってる。たしかお米は吸水スピードが早いから、汚れ水を吸い込まないうちに、手早く捨てることが肝心なんだよね？


早く、早く、もっと早く！　急いで水を捨てないとご飯が不味(まず)く……。


「きゃーー!?」


「どうした!?」


「急いで水を捨てようとしたら、急ぎすぎてお米までシンクに流しちゃいましたー！」


「おま……！　あーあ、盛大に流したなぁ」


先輩が隣に駆け寄ってきて、お米が豪快に撒き散らされたシンクを覗き込みながらため息をつく。


あたしはもう、ペコペコとひたすら謝るしかない。


「ごめんなさい！　ごめんなさい！」


「しかたない。もう米はいいから、卵を割って溶いてくれ」


先輩が冷蔵庫から卵を取り出して、ステンレスボールと一緒に調理台の上に置いてくれた。


あたしはゴクリとノドを鳴らし、次なるミッションと向かい合う。


大丈夫、簡単なことだ。この卵を、割ればいいだけだなんだ。


人間、やってやれないことはない！


ドキドキしながら卵を持って、ボールの縁に思いきって卵をコツンと打ちつけた。


――グシャッ！