期間限定『ウソ恋ごっこ』
「はあぁ⁉︎　なんだよそれ！」


先輩の裏返った大声がキッチンに響き渡る。あたしは両眼をギュッと閉じて身を縮こませた。


先輩、怒ってるぅ。こんな大事なことを今さら聞かされて、騙し討ちみたいなもんだもんね。


「包丁すら握ったことない⁉︎　なんだそりゃ⁉︎」


「だ、だって、包丁って刃物なんですよ？」


「知ってるよ！」


ボルテージの上がる先輩の声に首をすくめながら、あたしは必死に主張した。


「あんな大きな刃物なんて、凶器ですよ凶器！　あたしには、そんな危険物を振り回す勇気なんてありません！」


「誰も振り回せなんて言ってねえよ！　普通に野菜の皮を剥いたり、切ったり刻んだりすりゃいいんだよ！」


「だから、その普通ができたら苦労はしないんですってばー！」


半べそをかいて訴えるあたしを、先輩が口をパカリと開いて見ている。


そのままなにかを言いたそうに口をパクパクさせていたけれど、やがて大きく息を吐いてガクリと肩を落とした。
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