期間限定『ウソ恋ごっこ』
素直にご批判の言葉を受け止めるあたしの目の前で、先輩はテキパキと手を動かす。


卵を割り溶き、冷水を加えて混ぜ、振るった小麦粉を入れて菜箸で軽く混ぜ合わせる。


その液の中に食材をくぐらせ、油で揚げていった。


おぉ、天ぷらだぁ。先輩すごいや。天ぷら作ってる!


こんな高等技術を要する料理ができちゃうなんて、やっぱりただ者じゃない!


「よし、できた。温かいうちに一緒に食べよう」


海老天や野菜天の山を眺めて感激していたら、思いがけず食事のお誘いを受けて、あたしは目をパチパチさせた。


「え? あたしも? でもこれって先輩のご家族の夕食ですよね?」


「両親の分もちゃんと作ってあるから大丈夫」


「でも……」


初めてお邪魔したお宅で夕飯まで平らげるとか、あまりにも図々しい。


お断りする言葉を考えていたら、先輩が重ねて言った。


「両親は仕事で遅いから、夕飯はいつもひとりなんだ。お前が一緒に食べてくれるとうれしい」
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