期間限定『ウソ恋ごっこ』
なんと伊勢谷先輩が、あたしの背中にベタッとくっついて、上機嫌で笑ってる。


ひゃあぁ、近い! 近いと言うより完全密着!


驚いて目を白黒させているあたしを見て、先輩はイタズラが成功した子どもみたいに、薄い色素の両目を細めてニコニコしている。


「お、おは、おはようございます。伊勢谷先輩」


息が掛かるほどの至近距離に心臓バクバクしながら挨拶すると、先輩はあたしにくっついたまま、あたしの頭をナデナデした。


大きな手の感触に頭がボッと火照る。


「美空ちゃんのかわいい後ろ姿が見えたからさ、挨拶しようと思って急いで走って来たんだ。……わっ!」


伊勢谷先輩が急に後ろにのけぞってヨロけた。


近藤先輩が伊勢谷先輩のブレザーの後ろ襟を掴んで、容赦なく引っ張ったからだ。


近藤先輩の姿を見たら、ドギマギしてた胸がなんとなくホッとして落ち着いた。


「こら、司。少しは気にしろ」


仏頂面で注意する近藤先輩に、伊勢谷先輩は口を尖らせる。


「気にしろって、なにをだよ?」


その問いに答えるように、近藤先輩が右手の親指をクイッと背後に向けた。


そっちを見ると、女子生徒の一団がスカートをひるがえしながら、ドドドーッとこっちに走って来るのが見える。


あれは、伊勢谷SP軍団の皆さん。もちろん先陣を切って走ってくるのは折原先輩だ。


みんな揃いも揃ってすごい形相で、明らかにご立腹な様子。もちろん怒りの矛先があたしに向けられているのは、言うまでもないだろう。
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