期間限定『ウソ恋ごっこ』
「お前は笑ってる方がかわいい。だからもう泣くな」


先輩の指先があたしの頬に触れて、そっと涙を拭いてくれた。


――ドキン……!


先輩の固い指先の温かさと、頬に残る感触に心臓が大きく跳ねる。


熱くなった胸からドキドキが全身を駆け抜けて、一瞬で足先まで体温が上がった。


男の人に涙を拭いてもらうなんて、生まれて初めてだ。頭の中は『どうしよう、どうしよう』ばかりがグルグルする。


どうしようって、先輩は目の前の女の子が泣いたから親切に涙を拭いた。ただそれだけのことなのに。


そこに深い意味なんて、あるはずもないのに。


なぜ呪文にかかったように頭の中が真っ白になって、指一本動かないの?


声も出せずに棒立ちしているあたしの頬に手を当てたまま、先輩も黙ってあたしを見つめている。


いつの間にかその表情から微笑みは消えて、真剣な目をしていた。
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