期間限定『ウソ恋ごっこ』
その黒い瞳の奥に、ほのかな熱が見えた気がして、どうしても目が離せない。


「チビ、俺は……」


先輩の唇が少し動いたけれど言葉にはならずに、また閉じられた。


あたしも、自分の中に湧き立つ不思議な感情を声にできない。


こうして視線が絡み合ったまま、静かすぎる時間が流れていく。


五秒……十秒……。


指先と頬で交じるふたりの体温を通じて、お互いの感情がシンクロしていくような、胸がギュッと痛くなるような感覚に、あたしたちは無言のまま支配されていた。


「……先、輩」


どれくらいそうしていたのか、膨れ上がる胸の熱さに耐えかねて、あたしは小さな声を漏らした。


それを合図のように先輩がハッと目を瞬かせ、あたしの頬から慌てて手を離す。


そして、とても気まずそうに視線を逸らした。


その表情を見たとたんに、あたしも夢から覚めたような気がして、同じようにサッと目を逸らした。
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