期間限定『ウソ恋ごっこ』
思いがけない言葉に胸がトクンと熱くなって涙が止まった。


しっとりと濡れたあたしの両頬を先輩の大きな手が包み込む。


「ギリギリのところで踏ん張っているんだ。どうか俺にラインを踏み越えさせないでくれ」


ノドの奥から苦しみを吐き出すような表情とは真逆な、優しくて温かい手のひらから、先輩の苦悩が伝わってくる。


さっきロッカーを破壊しそうな勢いで殴りつけていた先輩の姿が脳裏に浮かんだ。


先輩のこんなに切なくて悲しい目は見たことがない。あたしも先輩も、どうしようもなく苦しんでいる。


ふたりの気持ちは同じなんだ。


……なら、これ以上はもう、いいじゃないか。


それをふたりが知っているのなら。


「わかりました。もう泣きません」


言いながら、精いっぱいの笑顔を作った。


困らせたくない。もう先輩を苦しめたくない。


だからもう、行ってください。近藤先輩。


こうして見つめ合っていても悲しいだけだから。
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