期間限定『ウソ恋ごっこ』
先輩はあたしの心を覗き込むような深い目をして、小さくうなずいた。


そしてあたしの頬から手を離し、一歩後ろに下がって背を向けて歩き出す。


とっさにその背中に縋りつきそうになったけれど、歯を食いしばって堪えた。


呼び止めたい。でも、それはだめなんだ。


先輩はそのままゆっくりとドアに向って進み、振り向きもせずに生徒会室から出ていった。


ドアを閉める音が静かな部屋にやけに大きく響いて、あたしはビクリと震える。


ふたりを隔てる壁の向こう側から、遠ざかる先輩の足音が聞こえて、あたしは両耳を強くふさいだ。


離れていくこの音を聞きたくない。


ふと気がつくと、頬が涙で濡れている。先輩がいなくなったとたんに、また涙があふれてきたんだ。


「うっ……。うえっ……」


先輩がいなきゃ泣きやめないよ。


……でも、『泣くな』って言ってくれる人は、もういない。


だからもう、思うぞんぶん泣いてもいい。


「うっく……。う、あぁ~……」


あたしは、泣いていいんだ……。






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