期間限定『ウソ恋ごっこ』
でもしばらくしたら玄関のカギが開く音がして、ゆっくりとドアが開き、シンプルな黒Tシャツ姿の先輩が姿を見せた。


「お前、もう来ないと思ってた」


「レッスンしないとお弁当作れませんから」


「……そうだな。自転車、いつもの所に置いて来い」


「はい」


追い返されなかったことにホッとして、自転車を置いてから玄関に戻り、家の中に入れてもらった。


先輩と一緒にキッチンに向かう間、まったく会話はない。


あんなことがあって明るくおしゃべりなんかできないのは当然だけど、この沈黙はかなり気まずい。


なにも言おうとしないお互いの気づかいが、余計にふたりの間に起った出来事を強調している。
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