期間限定『ウソ恋ごっこ』
ひと言もしゃべらないままキッチンに着いて、あたしは目を見張った。


テーブルの上にたくさんの食材や調味料がきちんと揃えて置いてあったからだ。


それらをポカンと眺めているうちに胸がジーンと熱くなって、泣きそうになった。


なによ。『もう来ないと思ってた』なんて言ってたくせに、いつあたしが来てもいいようにちゃんと準備してくれてたんじゃん。


本当はあたしのこと、待っててくれたんじゃん……。


「先輩」


目の前のレタスや豚肉から勇気をもらったあたしは、自分の考えを正直に話し始めた。


「あたし、先輩が好きです。あたしとお付き合いしてください」


先輩が否定の返事をしようと息を吸ったのがわかったから、それを遮るように、あたしは急いで言葉を続けた。


「ただし、条件付きで。先輩の家の中限定で、レッスンを受けている期間だけ」
< 265 / 408 >

この作品をシェア

pagetop