期間限定『ウソ恋ごっこ』
「なんかしゃべれよ」


先輩の声が静かな住宅街に響いて、ふと顔を上げると、薄暗い街灯に照らされた顔があたしを見ている。


その少し困ったような微笑を見返しながら、なにを言おうか迷った。


「暗くて静かだね」


そんなことしか思い浮かばない。我ながら面白みのない会話だなと苦笑していたら、先輩は真剣に答えてくれた。


「怖いのか? 心配するな。もしも変な奴が出てきても、俺が命に代えても美空を守ってやるから」


前にも似たような言葉を聞いた気がする。


あぁ、思い出した。先輩への気持ちを自覚したときに、生徒会室で言われたんだった。


『俺がお前と司の幸せを守ってやるから』


……あたしの幸せって、なんなのかな? ほんの少し前までは、先輩たちと笑い合えているだけで幸せだったのに。


もう今ではボンヤリした霧の中に隠れてしまって、よく見えない。


「命に代えて守ってほしくなんか、ないよ。あたしの隣で生きててほしいだけ」
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