期間限定『ウソ恋ごっこ』
チラリと横目で折原先輩の様子を窺うと、あたしたちとは距離をとった調理台で作業しながら、余裕の鼻歌なんか歌ってる。


どうやら順調に重箱弁当の準備は進んでいるようだな。


厚いステーキ肉やら、プリプリしてるエビやら、彩り豊かな野菜やら、すごく美味しそう。


手際もいいし盛り付けもすごくきれいだから、美的センスはあると思う。なのに彼女が好むエプロンがアレっていうのは、とことん謎な人だ。


「美空、あたしも疲れた。そろそろ交代して」


「あ、うん」


真央ちゃんからパックを受け取って、また振り始めたけど、なんの変哲もない作業を続けていると不安になってくる。


折原先輩があんな豪華な重箱弁当を作ってる横で、あたしがやってることってパックを上下に振るだけ。


さすがに焦るし自分が地味過ぎて悲しくなってきた。


ーーチャポン


「あれ?」


急にパックの中から音がし始めた。振る動きに合わせて、チャポンチャポンと水音が聞こえる。


「真央ちゃん、なんか音がする」


「本当だ。なんか聞こえるね」


「これ、もう振らなくてもいいって合図なの?」


「あたしに聞かないでよ」


中でなにが起こってるのかな? 開けて確認したいけど、大丈夫かな? 開けるのちょっと怖い。でも見たい。でも開けるの怖い。


……なんか、玉手箱みたい。
< 343 / 408 >

この作品をシェア

pagetop