期間限定『ウソ恋ごっこ』
伊勢谷先輩は学園の希望の星。


先輩を大好きな人がたくさんいるんだから、絶対に戻ってきてほしい。


「……うん。わかりました」


穏やかな声に、あたしは床から頭を上げた。


すぐ目の前に伊勢谷先輩の清々しい笑顔が見える。


ブラウントパーズみたいに澄んだ薄茶色の目も、すっかりいつも通りで、すべてを納得したように見えた。


「失恋はつらいけど、いつまでもグズグスしていられないからね。美空ちゃんを見習って前進するよ」


優しく微笑む伊勢谷先輩を見守っていた折原先輩も、安心したように「ふう」と息を吐き出した。


「あたしもそろそろ登校しなきゃね。友だちの顔が見たくなっちゃった。近藤君が許してくれたらだけど」


近藤先輩の首筋をチラリと見る折原先輩に、近藤先輩があっけらかんと言う。


「許すも許さないも、ありゃただの事故だろうが。それともお前、わざと狙ったのか？」


「あのときの記憶は怪しいから、もしかしたら無意識に首を狙ったかもね」


「お前！　それ以上俺に近寄んな！」


近藤先輩が素早い動きで後ずさって、またみんなが笑う。


そして伊勢谷先輩が近藤先輩の前に立ち、右手を差し出した。


「彬、俺たちまだ親友だよな？」


「もちろん。俺たちはこれからもずっと一緒だろ？」


「それ、俺の名言だぞ！　パクんなよ！」


笑って握手を交わすふたりを見ながら、あたしは胸がいっぱいだった。
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