あなどれないね、世唯くん。
けど、どうしても胸の中にある引っかかったものが取れない。
『俺……忘れられない人がいるから━━━』
ハッとして、とっさに目の前の身体を強い力で押し返していた。
「だ、ダメだよ……これ以上は」
ゆっくり身体を起こして、乱れたブラウスを自分の手でギュッとつかむ。
それと同時に、さっきのセリフが頭の中をグルグル駆けめぐって離れない。
それを早く忘れたくて、身なりなんて気にせずに保健室を飛び出した。
世唯くんは引き止めることもなく、
追ってくることもなかった。
勢いよく飛び出したはいいけれど、足首にまだ痛みがある。
……痛い、すごく痛い。
足の痛みなんかより何倍も。
━━━━胸の痛みのほうが……。