あなどれないね、世唯くん。
いま、たしかに呼んだ━━━━━"千景くん"と。
聞き間違いであってほしかった。
わたしの目の前にうつる、
わたしの大好きな人の背中。
いつもなら、その背中がこちらを振り向いて欲しいと思うばかりなのに。
いつもなら、わたしが真っ先に彼の名前を呼ぶはずなのに。
加奈ちゃんが声を発したと同時に、息を呑んだ。
あわよくば、このまま今の加奈ちゃんの声が届くことなく消えてしまえばいいのに……。
こちらを振り向かなければいいのに……。
……なんて、そんなわたしの微かな胸の内に思うことなんか誰も気づくわけもなく。
「━━━━━加奈……?」
振り返ってほしくない背中がこちらを向いた。