あなどれないね、世唯くん。
2人の過去に何があったかはわからないけれど、少なくとも世唯くんが言っていた"忘れられない人"は間違いなく加奈ちゃんであることはほぼ確実で。
いつまでも手に入らない世唯くんの心を求め続けて。
本当は少しだけ期待してる自分もいた。
触れて、絡めてくる指も、
優しく抱きしめるのも、
"いと"って呼ぶ、少し掠れた声も、
甘いくらいなキスも、
そして、たまに見せる独占欲も……。
ぜんぶ、わたしだから━━━━━━なんて。
少しでもわたしのことを想ってるから……とか、淡い期待を抱かされてばかり。
最初からわかってたはずなのに。
どれだけ欲しがっても、けっして手に入らない。
それでもいいから、
いっそのことぜんぶ溺れてしまえばいいなんて……。
「ねぇ、糸羽ちゃん」
ぜったい、わたしにとって嫌なことを提案される予感がする。
「少しの間だけ
……千景くんと2人っきりにしてもらってもいい?」