あなどれないね、世唯くん。



世唯くんこそ……。
どうして、そんな少し余裕のなさそうな顔でわたしを見てるの……?

突き放されて、また引き戻されるような。


ずるいよ、世唯くん……。


「……可愛い唇。食べたくなるね」


クラクラして……。
顔が近づいてくるのが見えて、
流れのまま唇が重なる寸前━━━━。


机の上に置かれた、スマホの電子音が鳴った。

それと同時に、世唯くんの動きがピタッと止まった。


ただ、お互いの視線は近距離で絡み合ったまま。

いまだに電子音は鳴り続けたまま。


「電話……鳴ってる、よ」

わたしのスマホはカバンの中なので、いま机の上で鳴っているのは世唯くんのスマホ。


わたしの言葉を無視して、ただこちらを見つめたまま。


その近さと視線に耐えられず、

思わず目線をはずし、机の上に置いてある世唯くんのスマホの画面が目に止まった。


あぁ……やだ。
嫌なものを見た。


画面に表示されていた

━━━━━"加奈"の2文字。

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