あなどれないね、世唯くん。
キスってこんなに甘かったっけ……?
頭がボーッとして、何も考えられなくなる。
「せ……いくん……」
息苦しさの中、ほぼ無意識に名前を口にしていた。
それに反応するように、さっきまで握られていなかった手にギュッと力が込められた。
息をするタイミングを失って、身体を少し後ろに引こうとしたのに、すでに後頭部に世唯くんの手があって、離れることを許してくれない。
「糸羽……もっと」
「っ、ん……」
このままぜんぶを奪われてもいいと、そう思わせるくらい、甘い刺激……。
ぼんやりとした意識の中、耳元にうっすら昼休み終わりの合図のチャイムが聞こえてきた。
「……残念。時間切れ」
名残惜しく、離れていってしまう。
甘い世界に浸っていたのに、一気に現実へ引き戻される。
「まだ…離れたくない…っ」
「ダメでしょ、終わりのチャイム鳴ったから」
どれだけわがままを言っても、この時間は延長されることはない。