あの子が居なくなった
第一章 あの子が居なくなった
中学一年の時に同じクラスとなってから、何をするにも私達三人は常に一緒だった。

 わたくし沢西真弓は中肉中背のごく普通の女の子で、渕上桜子は三人の中では最も長身の美人タイプだが最もお喋りさんであった。黙ってさえいれば・・・・なんと勿体ない。そんな感じの子でもあった。松江雫は頭が切れるというか、どことなく賢さが漂う落ち着いた子であった為、二人からは信頼されている立場である。

 兎に角、楽しかった。何でもかんでも面白可笑しくなるように盛に盛り上げまくった。箸が転がった程度では笑わないが、箸が床に落ちたとなるともう一大事で、洗った方が良いだの、三秒ルール発動で洗わなくても大丈夫だの、それは騒がしい程の毎日であった。だが、一つだけ問題があった。桜子の右隣の席の北口しゅうた。こいつである。私は桜子の左隣で、雫はずっと離れていて前から二番目に座っている。休み時間になると必然的に雫が二人の所に来るのだが、近頃はそこにしゅうたが寄って来るようになったのである。寄ってくると言っても話に参加しようとはしないが、自然を装っては桜子と私の間に入って来ては黙って頷きばかりを繰り返している。

 放課後の帰り道、学校から近い桜子と別れた後に雫に聞いてみた。
「しゅうたの事なんだけど・・・・」
雫は、「うん・・・・」と言って少々困ったような顔をしていた。
「どうしようか?」
「そうだよねえ」
 雫は基本的に人の悪口を言わない人である。だから、この手の話は苦手としていた。
「あいつ、桜子の事を好きなんじゃないかな。いつもくっついているし、そんな気がするんだけど」
「うーん、どうなんだろうね」
 雫のはっきりとしない返事のせいでこっちが熱くなってきた。
「いや、絶対にそうだよ。桜子も迷惑がってるし。第一、隣に来るとなんか臭いんだよね。車の排気ガスとか蚊取り線香とか、そんな匂いがして来るんだよね。あれ、いったい何だろうね」
「臭い? 気付かなかったけれど」
「臭いよ。名前もしゅうただし。しゅうたのしゅうは悪臭の臭なんだよ、きっと。だからいつも臭いんだよ」
 雫は愛想笑いはするものの、やはり話には乗ってこなかった。私の一番の親友なんだから、もう少し真面目に相談に乗ってくれても良いのにと、そう強く言い放った。

 翌日の朝、登校して教室に入ると珍しく桜子は雫の所にいた。私に気付くなり二人はいつものように私の所に来たが、何だか少しよそよそしい感じがした。そしてその日は一日中、話が盛り上がる事は無かった。
 夕方、桜子と別れた後、雫に詰め寄った。
「桜子と二人で仲良くして、いったい何なの?」
 雫は黙り込んでいる。黙秘権なんて無いぞ。私は畳み掛けた。
「雫は私の親友なんだから、そこはちゃんとしといてくれないと困る。大人になってもずっと親友でいるんだからね」
 雫は何も言わなかったが少しだけ頷いたように見えた。

 土日が過ぎ、月曜日になった。朝から席に座るや否や、桜子が強めの口調で言ってきた。
「あんた、雫を困らせてるでしょ?」
「何の事?」
「とぼけないでよ。私達は三人グループなんだから三人で仲良くするんだよ。変なことしないでよね」

 裏切ったな、あいつ・・・・
 
 あれから私は二度と親友を作らないと心に決めた。

 そして月日は流れて大人になった。
テレビのニュースではクリスマスイブを楽しむ街の人々の光景が移し出されている。テーブルの晩ご飯も幾分か冷めてきた。時計はもうすぐ七時になる。今から帰るって連絡があったのにまだ帰ってこない。
「遅いよなあ」
 時計を見る頻度が短くなる。そして、理由もないのに立ち上がってはリビングや部屋の中をウロウロとする。
 見飽きた時計の針を見上げた時、玄関のドアの音がした。私は平常心を装い玄関に向かう。
「ただいまー」
「おかえりー」
「はいこれ」
「何、これ?」
「クリスマスプレゼントだよ」
 手の平サイズの小さな箱。
「開けて良い?」
「良いよ」

 料理が並ぶテーブルに着くと丁寧に包装紙を剥がす。蓋をゆっくりと開けた。
「この前、君が素敵だと言ってたネックレスだよ」
 私は嬉しかった。勿論、ネックレスも嬉しかったが、私を想ってくれる気持ちが本当に有りがたかった。
「ありがとう。大好きだよ、しゅうたー」
 そう言いながら私は思いっきりしゅうたに抱きついた。しゅうたも微笑みを浮かべて言った。
「中学の時の長かった片想いが両想いになって本当に良かった。幸せだー」

 私の旦那様であり唯一の親友でもある。 
それが、しゅうた。
こんな性格の私だけど、ありがとうございます。


そして、雫と桜子。中学卒業以来会ってないけど、今どうしているのだろうか・・・

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