見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
返ってきた冷静で率直な言葉を、小さく頷いて受け止める。よっぽど子供が好きな人でない限り、周さんが言うような人は多いかもしれない。

しかし、彼は男らしく表情を引きしめ、「ただ」と続ける。


「君も子供も、幸せにする覚悟はとうに決めている。なにがあっても君たちを守る。それが子供を作る者の責任じゃないか」


力強い声は私にかすかな光を与え、同時に自分に足りないものがなんなのかを教えられた気がした。

たぶん私は、その責任を負う覚悟ができていないのだ。だから今になって臆病になっているのだろう。


「……私は、その覚悟をしたつもりになっていただけなのかもしれません」


ぽつりと呟き、片方の欄が寂しく空白になっている婚姻届を、彼のほうへそっと戻す。

今の状態では、これにサインすることはできない。彼の妻に、母親になるなら、この弱さを吹っ切ってからでないと。


「少し時間をください。もう一度、よく考えたいんです。ごめんなさい……」


胸の痛みを感じながら頭を下げると、周さんは綺麗な顔にやりきれなさを滲ませ、額に手を当てて俯く。

彼の厚意を無にしてしまったことの申し訳なさと、愚かな自分への落胆で一杯になり、目に映る茶色の文字がゆらゆらと歪んだ。

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