見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
指導してやりたい気持ちもヤマヤマだが、それよりも彼女の生態が珍しくて面白い。

それになにより、賑やかな家族と楽しそうにしている姿が、縁遠い俺にとっては眩しくて、素敵だと思った。

話を聞けば、希沙の母親は離婚していて、どうやら旧華族だという事実は明かしていないらしい。

なにか事情があるのだろうと察し、いずれわかることだが、俺も自分が旧華族であることはあえて彼女の家族には言わなかった。

家柄など関係なく、俺自身を見てもらいたかったためでもある。


そうして東京の自宅に希沙を連れてきてからは、なにげない日々が一変した。

帰宅すると待っていてくれる人がいて、素朴で美味い田舎料理や煎茶が用意されている。自分ひとりでは気づかないシャンプーの香りが漂い、すぐそばで笑顔の花が咲く。

希沙が俺とまっすぐ健気に向き合い、違った考えをぶつけてくるのも新鮮で。少しずつ彼女を知り、距離を縮めていくのが楽しく、嬉しい。

……いつの間にか、くたびれたジャージ姿だろうが、凛とした和服姿だろうが、どんな彼女も可愛いと思うようになっていた。

これが恋でなければなんなのか、説明をつけられなくなったのは、婚約指輪を渡した頃だったと思う。
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