見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
そんな俺の変化にいち早く感づくのは、いつも藪さんだ。学生の頃からの付き合いで、気を許せる兄のような存在の彼は、たぶん両親よりも俺のことを理解している。

同棲を始めてしばらく経った頃に、『お前もやっと人間らしくなってきたな』と、安堵と嬉しさが混ざった顔で言われた。

心を開ける女性をなかなか見つけない俺を、きっと心の中では心配していたのだろう。


藪さんには以前から『周って恋愛するの苦手だろ』とも言われていたが、確かにその通りだ。いつでも冷静でいるために、心を乱されることは避けていたかったから。

しかし、希沙がそばにいると触れたい衝動に駆られ、富井とふたりでいるところを見たときは奪われるのではないかと気が気ではなくて。本能のままに彼女を求める自分を抑えられなくなった。

細くて柔らかく、温かい彼女と抱き合うと、肉体的な欲求よりも心が満たされる。愛情に溢れた情事の極上の甘さを、初めて味わうことができた。

子孫を残すためだけに必要だと思っていたセックスは、彼女との愛を深めるための大切なコミュニケーションに変わった。

希沙となら、きっと幸せな家庭を作れる。いや、必ず作ってみせる。

そう、義務感ではなく、心から強く誓っているのに──。

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