見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
もちろん俺も希沙を信じているが、なぜ今富井のところへ行ったのだろうか。

なんとも胸騒ぎがして落ち着かず、ひとまず急いで家に帰ることにした。


……しかし、戻った自宅はしんと静まり返っていて、希沙はいなかった。

まさか、まだ富井と一緒にいるのか? 俺との生活に苦悩して逃げ出してしまった?

スマホを取り出して電話をかけてみるが繋がらない。いてもたってもいられず、荷物を置いてすぐにまた家を飛び出した。

車で向かったのは、目黒駅にほど近い呉服屋。もちろん富井一家が営む店だ。

店の外に路駐して呉服屋の引き戸を開け、着物の生地や帯、小物などが綺麗にディスプレイされたレトロな店内へ入る。すると、奥のほうから羽織風のカーディガンを着た富井が出てきた。

彼は俺が来ることを予想していたかのごとく、まったく驚いた様子もなく不敵に口角を上げる。


「いらっしゃい。なんとなく来そうな気がしてたよ。イチがここに来るなんて何年ぶりだろうな」

「悪いが、商品を買いに来たわけじゃない」

「わかってるって。とりあえずこっち」


やはり予想していたらしく、彼が出てきたほうへと案内される。畳の部屋にはパソコンや作業台などがあり、富井がデザインをする事務所になっているようだ。
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