見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
愛し君に娶られた、そのあとは
窓の向こうに見える桜の木は、鮮やかな緑の葉に覆われている。よく見るとさくらんぼのような赤い実が成っていることに気づいたのは、つい最近のことだ。
今日から六月。最愛の旦那様と出会って四回目の夏が、もうすぐやってくる。
のどかな一柳家の和室で、紅葉のような手がプラスチックのお茶碗をおぼつかない動きで弄るのを、私は微笑ましく眺めている。
「いっせんどうぞ」
私の真似をして差し出されたお茶碗を、「頂戴します」とゆっくり言って受け取る。
空のそれを丁寧に口に運び、飲むフリをして、満足した笑みを浮かべた。
「大変美味しゅうございます」
うやうやしく頭を下げると、目の前に正座する小さな師範も同様に頭を下げる。
「おそまつさんでした」
「あ、それだと違うものに……」
六つ子になっちゃうから……と心の中でツッコみ、気にせず二煎目を淹れようとするわが子にクスッと笑った。
一柳 棗、ただいま二歳と十ヶ月。無邪気でマイペースな、可愛い女の子だ。