見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
今日の彼女は、特別な着物姿だ。よほど嬉しいらしく、赤地に色とりどりの花柄が可愛い着物の袖を持ち、両手を広げてお父さんにアピールする。


「みてみて! きもの~」

「ああ、着物も髪もすごく可愛いよ。お人形さんみたいだ」


周さんはしゃがんで、長い髪を結った棗の両腕を優しく掴み、慈愛に満ちた笑顔を向けた。

棗はキャッキャと喜んでいるけれど、私も彼の笑顔を見るたびキュンとしている。

子供が産まれてから、周さんはさらに優しく、丸くなった。時間があるときは棗と遊んでくれるし、家事も手伝ってくれる。本当にいい父であり、いい夫だと思う。

ただ、富井さんと会うときだけは相変わらずの無愛想だ。

棗のこの着物を富井さんの呉服屋で作ってもらおうと、親子三人で店を訪れたときのこと。


『なにこの子、天使? 超絶可愛い。俺の子にしたい』


と、富井さんが真顔で言い、しかも子供の扱いが上手くて棗もかなり懐いているものだから、周さんはあからさまに不機嫌オーラを漂わせていた。

でも、きっとこれがふたりにとってのじゃれ合い方で、もう変わり様のないものなんだろう。ケンカするほど仲がいいというやつだな、と確信してからは、微笑ましく見守っている。
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