見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
とはいえ、いきなりなんの免疫もない環境に飛び込むのは、多大なる勇気がいる。


「もちろん、この部屋に溢れる私物くらいたくさんの不安もあります。結婚願望も、愛もない私たちですが、うまくやっていけるでしょうか」


まつ毛を伏せ、憂慮している気持ちを吐露した。こんなことを言ったって、どうなるかは誰にもわからないというのに。

一から始める私たちには、育むべきものが多すぎる。相手を思いやり敬う気持ちや、愛情……ゆくゆくは子供も。

いずれ必ず訪れるだろう困難も、ふたりで乗り越えていかなければならない。そうして一生添い遂げることが、本当にできるのか。

考えれば考えるほど不安の色が濃くなってきて、これじゃいけないと気を取り直そうとした、そのときだ。

ふいにこちらに手が伸びてくるのが見え、驚いた私はビクッと肩をすくめる。一柳さんの手は私の髪を掻き上げるようにして、そっと頬に触れた。

無愛想でクールな表情とは裏腹な、温かく優しさを感じる手に、鼓動が乱され始める。

彼は若干熱を帯びた瞳で私を捉え、形のよい唇を開く。


「俺にこうされるのは嫌か? 希沙」

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