見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
優しく腕を掴んでそう言われ、心がじんわりと温かくなった。この場所には味方しかいないのだと思うと、とても心強い。


「うん、ありがとう。悲しい顔して帰ってこないように頑張る」


茶化すように明るい声で宣言すると、母も笑みを浮かべて頷いた。


皆にしばらくの別れを告げ、侘しさを抱く私を乗せた車は青々しい茶畑を抜けていく。

一柳さんの黒い愛車は当然ながら高級車で、とても静かで乗り心地がいい。余裕を醸し出しつつも真剣な眼差しで運転する彼の姿も、俳優さんですかと言いたくなるほどカッコいい。

今日は七分袖のジャケットにテーパードパンツを合わせた、シンプルなのに洗練された私服姿で、初めて見るそれもまた魅力的だ。

一方の私は、白のブラウスにワイドパンツというスタイル。いつもよりはだいぶ気を使ったつもりだが、元がたいした容姿ではないのでこの人には釣り合わない気がしてならない。

複雑な気分で、見慣れた風景が流れていくのを眺めていたときだ。


「この間も思ったが、いい家族だな」


一柳さんのなにげない呟きが耳に届き、運転席に顔を向ける。

無表情だが声に優しさを感じたので、私は嬉しさを滲ませて「ありがとうございます」と返した。
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