見習い夫婦~エリート御曹司と交際0日で妊活はじめます~
彼は自嘲気味にそう言うと、おもむろに腰を上げた。今度はベッドに座り、自分の隣のスペースをトンと叩く。


「希沙、ここへ」


〝隣に来い〟という合図に、急に胸が騒ぎだす。若干ためらうも、従順に従うことにして私も腰を上げた。

拳ふたつ分ほどの感覚を開けて遠慮がちに座ったものの、そっと腰に手を回され、微妙な距離はすぐに埋められた。

そうして石鹸の香りがするくらい近くで、周さんが私を見つめてくる。

その視線に絡め取られるように目を合わせれば、ゆっくり持ち上げられた彼の手が私の髪に差し込まれた。

とても大事そうに、愛でるかのごとく髪を梳かれ、鼓動のスピードは速まるばかり。

どうしたんだろう、突然……。彼の心情は読み取れないけれど、普段の冷徹さとは不似合いだと感じるほどの優しい手つきが心地いい。

頬を火照らせ、されるがままの私に、彼は髪を撫でながらふいにこんなことを言う。


「今、祖父が昔言っていたことをふと思い出した。〝琴瑟相和す〟という言葉を知っているか?」


きんしつ、あいわす……?

なにかの呪文?などと、頭の中に疑問符を浮かべて「いえ」と小さく首を横に振った。周さんの説明はこうだ。
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