卑劣恋愛
☆☆☆

それから武が現れるまで、あたしは小屋の中をグルグルと歩き回っていた。


まだかまだかと待つだけの時間は、あまりにも長い。


しかし、武とのこれからの生活に思いをはせてみると、自然と顔の筋肉は緩んで、鼻血が出てきてしまう。


あたしは慌てて手の甲で鼻血をぬぐった。


こんなところ、武に見せるわけにはいかない。


変な女だと思われてしまう。


その時だった。


小屋のドアが2度ノックされたのだ。


あたしはハッと息を飲んで立ち止まり、すぐにドアへと駆け寄った。


「はい」


小さな声で返事をする。


「千恵美? 俺、武だけど」


その声にあたしの心臓はドクンッと大きく跳ね上がった。
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