卑劣恋愛
武が望むのなら、このオレンジ色の家で一緒に暮らすことだって平気だ。


武を産み、育ててくれた神様みたいな両親とならきっとうまくいくと思う。


鼻歌を口ずさみながら武が出て来るのを待っていたら、ドアの開閉音が聞こえてきて武が姿を見せた。


あたしは「おはよう!」と、声をかけて手を振る。


武はあたしを見た瞬間目を見開き、そしてすぐに視線を逸らせてしまった。


「昨日はいつもより早く家を出たんでしょう? 迎えに来たのに全然出てこないからビックリしたんだよ? 風邪でもひいて休むのかと思った」


あたしが話している隣を武は早足に歩きはじめる。


あたしはそれに合わせて小走りで付いて行った。


本当は隣を歩きたいけれど、武は本当に恥ずかしがり屋だから仕方ないんだ。


「それでさ、昨日は遅刻寸前まで待ってたんだよ? それでも出てこないからチャイムを鳴らしてさぁ」


そう言った瞬間、武が立ち止まった。


ようやくあたしを見てくれる。
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