卑劣恋愛
「なんで千恵美がいないんだよ」


倒れたあたしを見下ろして武が言う。


返事をしたかったけれど、体中に駆け巡った痛みのせいで言葉がでなかった。


意識が朦朧としてくる中、黒い箱を持った武が見えた。


武が箱のボタンを押すと、先端から青い光がバチバチと音を立てて放たれた。


スタンガン……！


「こんなところに呼び出すくらいだから、千恵美がついに俺のことを好きになってくれたんだと思ったんだぞ！」


武は顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。


それは今まで見たことのない顔だった。


あたしは恐怖を表情に表わすこともできなかった。


「千恵美を誘拐すれば俺だけのものになる。そう思って、スタンガンまで準備したのに……！」


千恵美が好きなのは智樹だよ。


そう言いたかったけれど、あたしの意識は途切れてしまったのだった。
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