卑劣恋愛
あたしは身をよじって少しだけ智樹から離れた。


拘束されているから、こんな抵抗をしても意味なんてないとわかっているけれど、やっぱり武以外の人間に近づいて欲しくなかった。


「この拘束を解いて」


「はぁ? そんなことするわけないだろ? ようやくノドカを俺の好きにできるようになったんだ」


智樹は舌なめずりをして言う。


あたしと同じだ。


あたしは智樹を見て咄嗟にそう感じた。


智樹はあたしと同じような恋愛観を持っている。


そんな智樹が簡単にあたしの拘束を解くはずがなかった。


「お願い智樹。拘束を解いたって、あたしは逃げないから」


うるんだ瞳でそう言うと、一瞬だけ智樹の顔色が変わった。


しかし「それはできないよ」と、あたしの頭を撫でて来た。
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