卑劣恋愛
千恵美の言葉にタケシは頷き、あたしに近づいて来た。


「いや……やめて!」


そう叫ぶと同時にあたしは武の体を突き飛ばしていた。


ハッとして見てみると、さっき硫酸がかかったせいで手のロープが溶けていたのだ。


突き飛ばされた武も千恵美も目を丸くしている。


逃げるなら、今の内だ!


あたしは四つん這いになって出口へと急いだ。


「逃がすな!」


千恵美の怒号が聞こえて武が真後ろに接近する。


ダメだ、捕まる……!


そう思った瞬間、ドアに手をかけて大きく開いていた。


あたしはそのまま、ハイハイするように道へ出る。


しかし、普通に歩いている武を撒くことなんてできるわけがない。


「助けて!! 誰か!!」


自分の声が空しいほど山にこだまする。


「ちょっと大人しくしてくれよ。千恵美のためなんだからさ」


武があたしを追い抜き、目の前で立ちどまった。


あたしは青ざめて武を見上げる。
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