卑劣恋愛
「久しぶりだね武。会いたかったよ」


顔は変わってしまったけれど、目の前にいる愛しい武に鼻血が流れ出した。


あたしは手の甲で鼻血を吹き、武の頬に触れる。


傷が痛んだのか、武は軽く顔をしかめた。


「ごめんね武、智樹のバカがこんなことして」


「お前が智樹に命令してやらせたんだろ」


武の声は震えていた。


恐怖心とか、怒りとか、いろいろな感情が混ざり合っているように感じられた。


「それは違うよ!」


あたしは武の胸に縋り付いて言った。


武は一瞬身をよじって逃げようとしたが、智樹にナイフを突きつけられているので大人しくなった。


「あれは俺が独断でやったことが」


智樹が答える。


「そうだよ。あたしが武を傷つけるわけないでしょ?」


こんなに好きなのに、どうして傷つけることができるだろう。


「そろそろ行こうか、武」


あたしはニッコリとほほ笑み、武の手を握りしめて歩き始めたのだった。
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