卑劣恋愛
しかし、残念ながらその音はリビングには届かなかった。


しっかりとした作りになっている家が幸いしたのだ。


「こんなに汚くしたらダメじゃん。直してあげるから」


手間のかかる子供みたいだと思いながら、あたしはクローゼットの中に頭を突っ込み、毛布を敷き直し始めた。


クローゼットの中の空気は淀んでいて、血の臭いがする。


後で消臭スプレーをかけた方がいいかもしれない。


そう思った時だった。


カブトムシの幼虫のように丸まっていた武が、突然足を延ばしてあたしの体を蹴って来たのだ。


不意のことで逃げることができなかったあたしは、モロにくらってしまった。


顔をしかめて武を睨み付ける。


武はその隙にクローゼットから這い出ようとしていた。


「ちょっと、いい加減にしてよ」


あたしは低い声で言い、武の体をクローゼットの中へ引きずり込んだ。
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