卑劣恋愛
「顔面じゃなきゃ、しばらくはバレないよ」


千恵美は相変わらず嫌らしい笑みを浮かべたままだ。


「ここは、智樹の家なの? 地下室?」


「そうだよ。こんないい場所があるなら、最初から智樹の家に武を呼び出せばよかったのにね」


今度はグルグルとあたしの周りを歩きながら言う。


どこからキックが飛んでくるかわからなくて、あたしは自分の身を更に小さくさせた。


「智樹の両親も今は旅行中で家にいないんだよ? 呑気だよねぇ、自分の子供が爪を剥がされたり、女子生徒を監禁してるのに、なにも気が付かないなんてさぁ」


「旅行……?」


あたしは驚いて目を見開いた。


「そうだよ? 一か月くらい家を空けてるんだって」


「そんな話聞いてない!!」


智樹の両親は共働きだから、千恵美が家にいても昼間はバレないと考えていた程度だ。


「智樹も全部は行ってなかったみたいだね? それで、まんまと誘拐されてきちゃうんだから、ノドカもバカだよねぇ」


不愉快な笑い声が地下室中に響き渡り、あたしは耳を塞ぎたくなった。
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