卑劣恋愛
そんな……。


智樹は元々あたしを誘拐するつもりだったのかもしれない。


今か今かと機会をうかがっていたのかも、


そう思うと悔しくて、また下唇を噛みしめた。


「お願い……家に戻らないと、武がいるんだから」


あたしは振るえる声で言った。


あたしがここに捕まっている間、武は飲まず食わずになってしまう。


せっかくあたしへ向けてほほ笑んでくれるようになったのに、そんなことは絶対にさせたくなかった。


「あぁ、それなら心配いらないよ?」


「え……?」


「今、智樹がノドカの家に行ってるから」


「は……?」


あたしは千恵美の言葉に目を大きく見開いた。
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