卑劣恋愛
あたしは食料を部屋の中央に置くと、今度は木材を手に取った。


これを窓やドアに打ち付けて侵入者を防ぐのだ。


即席だけど、これで2人きりの世界ができあがる。


食料が尽きるまでの命だとしても、2人でいられるならそれでもよかった。


あたしと武は鼻歌まじりに板を打ちつけて行く。


金槌を振るうたびに、父親の藁人形を思い出した。


大学生のお姉さんが行方不明になったことは全国ニュースで報じられていたけれど、まだ遺体は発見されていないようだ。


父親はきっと今でも、時々あの山へ向かってお姉さんと2人の時間を楽しんでいるだろう。


それもひとつの愛情表現だった。


他人に理解してもらう必要なんてない。


自分たちの気持ちが通じ合っていれば、それでいい。
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