卑劣恋愛
「なによ、もっとよく見せてよ」


「嫌だよ」


あたしは母親を睨み付けてポケットにスマホをねじ込んだ。


「武くん、さっきの子が好きなんでしょ」


「は?」


母親の言葉にあたしは思わず絶句してしまいそうになった。


「写真を見てるだけでわかるわよ? 武くんの視線が、ずっと奥にいるあの子に向かってること」


あたしの母親は一体なにを言ってるんだろう?


武が千恵美を好き?


そんなことあるはずない。


だって武の彼女は、このあたしなんだから。


「お弁当は武に作ってあげるの。武が、作ってくれって言ったから」


あたしは早口に母親へ向けて説明したのだった。
< 29 / 262 >

この作品をシェア

pagetop