卑劣恋愛
6畳ほどの書斎にはズラリと本棚が並び、難しそうな経済書がズラリと並んでいる。


その真ん中に、茶色いデスクが置かれていてこちらに背を向けて座っている父親がいた。


やっぱり仕事だろうか。


そう思った時、父親が何かの写真を手に持ち、頬ずりするのを見た。


続けて、その写真をいとおしそうに下から上に舐め上げる父親。


その姿に微かに寒気が走った。


見てはいけないものを見てしまった気がする。


それでも、あたしの体はなかなかその場から離れなかった。


怖い物見たさがあったんだと思う。


父親はその写真と一旦机の上に置くと、引き出しから藁人形を取り出したのだ。


それを見た瞬間声を上げそうになってしまい、慌てて両手で口を塞いだ。


本物の藁人形なんて、生まれて初めて見た。


父親はその藁人形を机の横の柱に固定し、顔の部分に先ほどの写真を張り付けたのだ。


映っていたのは近所に暮らしている大学生のお姉さんだ。


年齢が近いこともあって、あたしは何度かお姉さんの家に遊びに行ったことがある。


勉強だって、教えてもらっていた。


父親は低くくぐもった笑い声をあげながら、金槌を取り出し、五寸釘をお姉さんの顔に突き立てたのだった。
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