とろけるような口づけは、今宵も私の濡れた髪に落として。
彼、貴方、あの人。

距離を置こうと逃げ回っていたのは私。

何度門前払いをしても私の仕事先に現れ、私の親と共謀して私を陥れた人。

お笑い番組が好きで、笑い上戸でソファを転がり落ちる陽気な面もある。

切れ長の目は冷たく感じるクールな人なのに、目元にある黒子が嫌に色っぽい。

私が合コンに行くのを、「俺は心が狭いので」ときちんと嫌だと意思表示をしてくれる人。

私が貴方のために必死で伸ばした髪を、あっさりと切った張本人なのに。

こうやって雷で震える私のために、肩を濡らして急いで帰宅してくれた優しい人。

色んな感情が頭の中をぐるぐる駆け回って、何が正解か分からない。

分からないから試させて。分からないから教えてほしい。

「――華怜」

呼び方が甘く吐息を混じらせて変わると、ソファを軋ませながら座りなおす。

私の目を見て、気持ちを推し量り、気持ちを読み取ろうとしてくる。

「試して」

私は、ただ知りたいだけ。

男性恐怖症と、自分で自分を偽って男性を遠ざけていた私が、どうしてあなたに触れられたのか。

逃げ場がないからと嫌々結婚すると決めたはずなのに、どうして貴方の意外な一面に気づく度に心が動揺しているのか。

教えて。

試して。

一矢は少し傷ついたように微笑んだ後、指先で私の唇をなぞり、落とすように唇を合わせた。

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